1766年にイギリスの化学者・物理学者であるヘンリー・キャヴェンディッシュが発見。1783年にフランスの化学者 アントワーヌ・ラヴォアジエによって命名された。
語源はギリシア語の 「hydro(=水)」と 「gennen(=生む、作り出す)」で「水を生むもの」という意味。
宇宙では最も豊富な元素であり、宇宙の質量の4分の3を占めるといわれる。
水素の原子番号は1番。化学の勉強で、元素※の周期表を「スイ、ヘー、リー、ベ…」という語呂合わせで覚えた方は多いと思いますが、それのいちばん最初にでてくるのが水素です。
水素は通常、水(H2O)やメタン(CH4)のように他の元素との化合物として存在するため、水素が地球上に単体(水素分子H2の状態)で存在することはほとんどありません。火山の噴気や天然ガス中にわずかな水素が含まれることはありますが、大量に水素ガスが産出したという例はありません。
※元素とは…物質を化学的に分けていき最後に得られる要素のこと。ただ一種類の原子によって作られる物質。
例えば、水は水素Hと酸素Oの化合物なので、水を電気分解すれば水素が得られます。また、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料は、水素Hと炭素Cを主成分とする化合物です。
つまり水素は、『通常は単体でほとんど存在しないが、水や各種の化合物からさまざまな方法で取り出すことができる気体』なのです。
『水素』と聞くと「水素爆発」という言葉を連想される方も多いと思います。水素は可燃性ガスですが、燃焼を助ける物質(支燃性ガス)が存在しないと燃えることができません。
支燃性ガスとの特定のガス濃度の範囲で着火源が存在するときに爆発します。水素の爆発濃度範囲は、空気中では4.0~75%。
つまり“空気中の水素濃度が4.0%より低い”または“75%より高い”ときには、引火して爆発することはないのです。
日常生活の中で室内の水素濃度が4.0%以上にすることは容易ではありません。
例えば、バスルーム(1618サイズ 1.6m×1.8m×天井高2.0m)に水素を充満させることを考えてみます。バスルーム室内の空間体積は5.8m3。その4.0%は0.23m3(=230000cm3)。100%水素ガスを毎分60cm3(mL) 発生する水素ガス発生機を設置し、連続運転させると仮定します。水素ガスが漏れないよう完全密閉できたとして、およそ2日半かかる計算になります。
そもそも水素は、すべての物質の中で “密度が最小” つまり「最も軽く」、さらに空気中での “拡散係数が最大” つまり「最も広がりやすい」気体です。また水素は分子の大きさが最も小さいため、例えば一般的な部屋の壁や天井は簡単に通過して逃げてしまいます。そのため一般的な日常生活では、まず大きな爆発が起きる状況を作り出すこと自体がとても難しいのです。
水素の濃度や量を表すときに「%」「ppm」「ppb」がよく使われているのを見かけます。
% (ppc)【
parts
per
cent
】は 100分のいくらであるかという割合を、
ppm【
parts
per
million
】は 100万分のいくらであるかという割合を、
ppb【
parts
per
billion
】は 10億分のいくらであるかという割合を示すものです。
濃度を示す目的で用いられる場合は、通常《液体中の気体》については重量比を用い、《気体中の気体》については体積比を用います。
水素水とは、水素分子を水の中に溶かしているもののことをいいます。
水などの液体には溶け込むことができる限界量があり、その溶けたものの質量の値を溶解度といいます。そして溶解度を超えた状態のことを「飽和」といいます。飽和とは、最大限まで満たされた状態、つまり「もうこれ以上入りきらない」という状態のことです。
気温20℃、通常の1気圧の状態で、水1000g(1リットル)に対する水素の溶解量(溶ける量)は 0.00162g(重量比で1.62ppm)です。科学的には mol(モル)という単位を使うほうが望ましいのですが、水素水の普及でppmでの表記が一般的に知られるようになりました。ちなみに 1.62ppm は 0.81mmol(ミリモル) になり、体積にすると 19.44mL、およそ 20mL になります。
また溶解度は気温や圧力で変化するため、水の温度が20℃より低ければ水素が溶け込む量が増え、圧力をかけた状態にしても溶け込む量が増えます。
「溶存水素濃度」とは、水に水素が溶け込んでいる濃度のことです。
水に溶け込んだ水素は時間とともに抜けていきます。例えば飽和状態の高濃度水素水をコップに注いだあとそのままにしておくと、コップの材質や環境にもよりますが、3時間後にはほとんど抜けてしまいます。
地球を取り巻いている空気のことを「大気」といいます。
人間は呼吸によって肺で空気の交換を行っており、吸い込む空気を「吸気」、吐き出す空気を「呼気」といいます。人間が呼吸で取り入れる吸気の成分は、大気の組成と同じ成分になります。
大気中の大部分は窒素と酸素で構成されており、窒素が約78%、酸素が約21%を占めています。
その他にはアルゴン 約0.9%、二酸化炭素 約0.04%などで構成され、そのうち水素は約0.00005%含まれています。
2016年12月9日に「水素ガス吸入療法」が厚生労働省の先進医療Bとして認可を受け、医療機関外で心停止した成人患者のうち、院外または救急外来において自己心拍が再開した後も昏睡状態が続く患者を対象に、2%水素を添加した酸素を人工呼吸器で18時間吸入するという臨床試験が慶應義塾大学病院など十数の医療機関にて実施されていました。
現在は、コロナ感染症まん延に伴い、2022年3月23日に試験終了による取り下げとなっています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000929835.pdf
「水素ガス吸入療法」は、マウスをつかった実験では、水素ガス投与によって心停止後の生存率を38.4%から71.4%まで高め、脳細胞へのダメージも減らせる(※以下参照)ということが報告されています。
この療法の安全性・有効性が示されれば、数年後には広く提供可能な画期的治療となる可能性があると言われています。
今後の研究に期待が高まります。
※参考:『Organ Biology』VOL.23 NO.2 2016 117(27) 【発行元:日本臓器保存生物医学会】
「水素ガス吸入療法による心肺停止蘇生後臓器障害抑制」佐野元昭(慶応義塾大学医学部循環器内科)